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7月20日の日本経済新聞に神戸新開地・喜楽館に関する記事を掲載していただきましたので、ご紹介させていただきます。
記事の内容は以下のとおりです。
上方落語 新たな才能を開く地に 神戸にも定席(もっと関西)
上方落語の2つ目の定席「神戸新開地・喜楽館」が11日、神戸市兵庫区でオープンした。かつて劇場が軒を連ね「東の浅草・西の新開地」と称されたこの地で、42年ぶりに復活した演芸場。天満天神繁昌亭(大阪市)に続いて若手を育成し、落語ファンを開拓する。一方、支配人の不在や集客力など課題も多い。
将来の上方落語界を担う人材がここから出てきてほしい」。上方落語協会の会長、笑福亭仁智は11日の口上で喜楽館への期待をこう表現した。
喜楽館の大きな役割の1つが若手の育成だ。出演者を選定する上方落語協会の喜楽館担当委員会の委員長、桂文之助も「興行の質や演者のバランスを保ちながら、近年力をつけている若手がトリをとる機会を増やしたい」と話す。
■東京の成功意識
2人が意識するのが東京の落語界。近年、真打ち昇進前の勢いある若手が人気を呼び、寄席の集客にも大きく貢献。若手の登用は新たな若いファンの開拓につながり、落語会全体を活気づける。「若手同士が競い合う効果も期待できる」と文之助は言う。
活躍の場を求める若手が増えているとの事情もある。2006年の繁昌亭開業以降、上方落語界は100人近くが新たに入門した。喜楽館は彼らの育成の場としても機能することになりそうだ。
だが、喜楽館は順風満帆のスタートを切ったとは言い難い。当初、民放の元プロデューサーを支配人に据える予定だったが開館前に本人の事情により辞退。支配人不在で開館という想定外の事態となった。
一般的に寄席は席亭と呼ばれるプロデューサーが出演者などを選び、その寄席ならではの「色」を出す。暫定的に番組制作などを手掛ける文之助も「現状では色が出しにくい」と認める。当面は文之助を中心とした担当委員会が出演者を決めるというが、早急な支配人の選定が求められる。
■集客力には懸念
集客力への懸念も根強い。喜楽館は約200席の客席を備える繁昌亭とほぼ同規模。こけら落とし公演のチケットの売れ行きは順調だが、あるベテラン落語家は「立地的に大阪からの集客は見込みにくい。神戸以西の客だけで席が埋まるのか」と不安を隠せない。
繁昌亭に続き、喜楽館の開館を主導したのは、上方落語協会の前会長、桂文枝。「繁昌亭は、何か楽しいものが見られるという印象が一般の人に定着したことで成功した」と強調する。喜楽館については「落語だけでなく、コントや他のジャンルと協力したイベントなどに僕自身がまず挑戦する。それを見た他の人たちが自由な発想で喜楽館を使ってくれたら」と、後進を巻き込んで盛り上げたい考えだ。
昼は落語の定席だが、夜は落語以外の演目を増やし、繁昌亭と差別化しながら運営する。将棋やジャズといった落語以外の様々な催しも予定している。文枝は「後発の寄席なんだから、繁昌亭と同じことをしてもしょうがない。より自由な場所になったらいい」とも話す。今後、喜楽館ならではの斬新な演目も登場しそうだ。
ベテラン落語家の笑福亭福笑は「神戸は落語をよく知っている熱い客が多い印象がある。ワクワクしている」と話す。喜楽館の向かいはかつて、演芸場の「松竹座」があった場所。古典の名手とうたわれた六代目笑福亭松喬はその松竹座で六代目笑福亭松鶴の落語を見て、入門を決めたという。
演芸評論家のやまだりよこ氏は「集客をはじめ様々な心配はあるが、長くこの地に定着して若い世代が演芸と出合い、第2、第3の松喬が生まれる場所に育ってくれたら」と期待を寄せる。
(大阪・文化担当 佐藤洋輔)